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「顧客価値」に見合った「価格」「コスト」の設定方法
「顧客価値」とは
企業の目的は何でしょうか? それは、顧客に対してなんらかの提案をし、満足してもらうことであり、それを継続しながら社会を良くすることです。これを「顧客価値提案」といいます。
「顧客価値」とは、顧客がその商品やサービスに対して受け取るメリットや満足の総和から、顧客が支払った価格を差し引いても、なお余る「お得感」のことを示しています。 「顧客価値」を金額に変換すると、顧客が商品・サービスに「支払っても良いと考える金額」から、価格を差し引きます。そうすると、顧客が商品やサービスを手に入れてもなお感じる「お得感」が見えてきます。なお、この「支払っても良いと考える金額」を顧客の「支払意欲(WTP:willingness to pay)」と呼んでいます。
「顧客価値(お得感)」=「顧客の支払意欲(WTP)」-「商品・サービスの価格(Price)」
なお、「顧客価値」のうち「顧客の支払意欲(WTP)」をより高めるための具体的な方法をご紹介します。今回の事例では、「顧客が、ホテル宿泊時に、喉を潤したい」というニーズがあるものとして考えいきます。
(1)「顧客価値」を「ゲイン」と「ペイン」で表現する
大きく2つに分けて考え、表現していきます。
①「ゲイン(Gain)」を増やす観点
⇒顧客の「望み」を叶える
⇒顧客の「喜び」をより増やす(または創出する)
②「ペイン(Pain)」を減らす観点
⇒顧客の「恐怖(①不安②悩み③焦り④面倒」「痛み」をより減らす(または取り除く)
例えば、以下のような「顧客価値」の表現が考えられます。
①「ゲイン(Gain)」を増やす観点
⇒より健康効果を高めながら、喉を潤す。
②「ペイン(Pain)」を減らす観点
⇒ホテルから外出して店舗(近くのコンビニ)に出向いたり、着替えたりする手間や面倒をなくして、喉を潤す。
(2)「顧客価値」を「機能価値」「情緒価値」「体験価値」で表現する
大きく3つに分けて考え、表現していきます。特に、経営資源の乏しい中小企業において重要なポイントは、どこにもありふれた当たり価値である「機能価値」のみではなく、「情緒価値」や「体験価値」を創意工夫により新たに創出して、「顧客の支払意欲(WTP)」を高めていくことと、他社差別化(顧客に選ばれる理由づくり)を図っていくことになります。
①「機能価値」で表現する
⇒モノとしての「機能・スペック」やその特長や程度
他えば、
・喉の渇きを軽減できる、
・健康を維持するための栄養素を補給できる、等
②「情緒価値」で表現する
⇒モノが「顧客の感情」に作用した結果として得られる価値
例えば、
・そのドリンクを飲むと、”ほっと安心”できる
・そのドリンクを飲むと、”季節感”を感じる
・そのドリンクを飲むシーンがインスタ映えして“かっこいい”、“かわいい”
・そのドリンクを飲むと、“自分らしさ”を表現できる
・そのドリンクを飲むと、“優越感”を感じる、等
③「体験価値」で表現する
⇒モノやサービスの利用や顧客と企業の共創により生み出される「体験」として得られる価値
例えば、
・ドリンクを飲む場を通じて 自然とコミュニケーションが広がり”楽しめる””くつろげる”、等
「顧客価値」に見合った「価格」「コスト」の設定方法
「顧客が、ホテル宿泊時に喉を潤す」ことに対して、「顧客の支払意欲(WTP)」が500円で、それを解決するソリューションとして“健康ドリンク”の「価格」が400円であった場合には、「顧客価値」は100円になります。そして、もし、この“健康ドリンク”をホテルが「仕入れコスト」100円で仕入れていたとしたら、ホテルの取り分である「粗利益」は300円になります。最終的にこの取引によって生まれた「総価値」は400(=500-100)円となります。
「顧客の支払意欲(WTP)」が500円であれば、この健康ドリンクの「価格」は400円から490円に値上げしたとしても売れると思います。しかし、この時、「顧客価値」は100円から10(=500-490)円に下がるため売れ行きは多少鈍るかもしれませんが、売れないわけではありません。ホテルの「粗利益」は、300円から390(=490-100)円と大きくなります。他方で、健康ドリンクの「価格」を400円から390円に下げれば顧客は喜びますが、ホテルの取り分である「粗利益」は少なくなります。
仮に「顧客価値」が、「情緒的価値」や「体験価値」が含まれておらず、「機能価値」のみで表現されていた場合を考えましょう。この場合、「顧客の支払意欲(WTP)」は、500円から大幅に下がることが考えられます。例えば、150円に下落したものとします。「仕入れコスト」が同じ100円であったとしても、「顧客価値」を生み出すための「価格」は150円以下に設定しなければならず、それに連動して、企業の「利益」も300円から50(=150-100)円以下に減少します。よって、「機能価値」に加えて「情緒価値」「体験価値」を表現(新たに創出)することにより、「顧客の支払意欲(WTP)」を高めていく活動が重要になります。
このように、企業は、顧客とともに「総価値(400円)」を、「顧客価値」と「利益(≒企業価値)」を共有しています。単純にみれば、「顧客価値」は、「価格」を低めることによって実現するものと思われがちですが、それは避けるべきです。企業の「利益」が小さくなり、企業の犠牲のもとで「顧客価値」を生むことになるためです。それよりも、可能な限り「顧客の支払意欲(WTP)」を高めて「総価値」を伸ばす「価値創造活動」をしていくことです。「価格」を高めても「顧客価値」を生み出すことは可能になり、さらに企業の「利益」も増大します。顧客に喜んでもらい、利益も上げている、いわゆる「尖った」企業は、こうした思考をベースに活動しています。